エンドオブライフ・ケア協会の実践に基づく原著論文が、
国際誌 Palliative Care and Social Practice(SAGE) に掲載されました。
苦しみから支えへ― スピリチュアルケアの本質をコンパッション教育に応用する ―
本研究では、2018年より全国で実施してきた
「折れない心を育てるいのちの授業」を通して出逢ってきた
子ども・若者の言葉(約6.5万件)をもとに、
苦しみや支えがどのように経験されているのかを分析しました。
その結果、
・言葉にならなかった苦しみが言語化されていく記述
・苦しみの中で支えの存在に気づく記述
・「わかってもらえた」という経験を通して、自分自身の捉え方に変化が見られる記述
・他者に向かう思いの芽生えとして読み取れる記述
などが見られました。
本研究は、特定の効果や因果関係を示すものではなく、
日常の関係の中で人がどのように苦しみを捉え、
意味を見出していくのかというプロセスを、
記述的に明らかにしたものです。
特に本研究が示唆しているのは、
苦しみが必ずしも解決されるわけではない状況においても、
それが誰かに認められ、共有される関係の中で、
人が自分自身を「これでよい」と感じられる
可能性があるということです。
これらの経験は、
問題解決や行動変容を前提とするものではなく、
関係の中で苦しみがどのように捉えられ、
保たれるかというあり方に関わっています。
また、他者への思いや関わりは、
一方向的な結果として生じるものではなく、
自分自身が認められる経験の中で、
ときに立ち上がる可能性として捉えられます。
こうした視点は、
スピリチュアルケアにおける
苦しみの意味づけや関係性のあり方が、
教育の文脈にも現れうることを示唆しています。
エンドオブライフ・ケア協会では、
専門職の育成に加え、学校や地域での実践を通して、
誰もが身近な関係の中で支え合える社会の実現を目指しています。
今後も、日常の関係の中で起きていることを大切にしながら、
実践と学びを積み重ねてまいります。
背景(Background)
日本では、いじめや不登校、子ども・若者の自傷や自殺の増加などが深刻な社会課題となっており、情緒的苦痛や社会的孤立の広がりが指摘されている。こうした中で、人との関係の中で苦しみや支えに気づく力を育むことは、教育および公衆衛生の観点から重要な課題である。
目的(Aim)
本研究は、「折れない心を育てるいのちの授業(Lessons of Life Program:LLP)」に参加した子ども・若者が、苦しみや支え、ならびにコンパッションに向かう志向をどのように言語化しているのかを、記述的に明らかにすることを目的とする。
方法(Methods)
本研究は、実践に基づく質的研究である。2018年から2025年9月までに日本全国の学校教育の場で実施されたLLP(1,059回)において収集された自由記述(約65,000件)を対象とし、参加者が苦しみや支え、関係性のあり方をどのように表現しているかについて、帰納的に分析を行った。
結果(Results)
分析の結果、以下の3つのテーマが抽出された。
(1)苦しみと支えへの気づき
(2)関係性の中で自己の価値や意味を捉え直すこと
(3)コンパッションに向かう志向の萌芽
記述の中には、これまで言語化されてこなかった苦しみが、「わかってもらえた」と感じる経験を通して再解釈され、相互に支え合おうとする意図として表現されるものも認められた。
結論(Conclusion)
本研究は、スピリチュアルケアに由来する考え方が教育の文脈においても意味を持ちうることを示唆するものである。本研究は効果を検証するものではなく、仮説生成的な記述研究として、子ども・若者が日常の中で経験する苦しみをどのように捉え直し、「わかってもらえた」経験を通して自分自身を「これでよい」と感じるに至るのか、そしてときに他者との関係性に向かう志向がどのように現れるのか、その関係的プロセスを明らかにした。
◆関連論文
緩和医療学会「Palliative Care Research」Vol.18 No.4 12月公開論文
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「折れない心を育てるいのちの授業プロジェクト」:
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